SDメモリーカードに代表されるフラッシュメモリ,いわゆる「不揮発性メモリ」には種類がある事をご存知でしょうか? 弊社は医療機関を主体としたIT企業なので,基礎技術に関する解説・講釈は専門家にお任せするとして,不揮発性メモリを使うユーザの視点から,ちょっとお話しをさせて頂きたいと思います.

(画像はWikipediaより)

さて,

SDメモリーカードには寿命があります.

という事は皆さんご存知かと思いますが,実際に寿命を迎えた経験のある方は少ないのではないでしょうか?あるいは,使っていたらいつの間にか使えなくなってしまった(壊れてしまった)という経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません.しかし,どれくらい使ったから壊れてしまった,というのは実感としてつかみにくいのではないかと思います.これは主に,SDメモリーカードの使い方にあると思います.一般的にSDメモリーカードはデジタルカメラや携帯電話,スマートホン等で使われる事が多いかと思いますが,これらの機械は定期的に書き込みをするものではない事が多く,したがってどのくらい使えば壊れるのか判断がつきにくい事が原因と思われます.

前置きが長くなってしまいましたが,弊社,というよりも当院では,電子カルテサーバやレセプトコンピュータサーバなどを,MicrosoftのWindows Hyper-V server上の仮想マシンで稼働させています.このHyper-V serverはWindows Server coreのHyper-V機能(仮想化機能)に限定したOSで,基本的にはWindows Server coreとほぼ同様に,OS自体が非常に小さくまとめられています.3年ほど前,当時はWindows8.1と同世代のWindows Hyper-V server 2012R2を使用していましたが,OSのサイズが非常に小さく,かつ,(当時は)クローズドネットワーク環境だったためアップデートの頻度も少ないことから,32GBのmicroSDメモリーカードを起動ドライブとしてOSをインストールしました.そしてインストールのおよそ8か月後,ある日突然,Hyper-V serverが起動しなくなり,原因を調べたところmicroSDカードの読み書き不良である事が判明しました.その時は,秋葉原のどこかの店頭で買ってきた適当な(メーカーも分からないような)メモリはダメだなぁ,と思ったのですが・・・.

よくよく調べてみると,SDメモリーカード(NAND型フラッシュメモリ)には,SLC,MLC,TLC(現在ではQLCも市販されています)という種類があり,読み書き速度と耐久性はSLC > MLC > TLC (> QLC)の順に高く,価格はその逆の順に安くなることを知りました.詳細な説明に関しては専門のホームページなどを参照して頂ければと思いますが,これらの違いを簡単に説明すると,

  • SLCは1つのセル(データを保管するスペース)に1Bitの情報を記録する.書き換え耐用回数は10万回程度.Single Level Cellの略.
  • MLCは1つのセルに2Bitの情報を記録する.書き換え耐用回数はSLCの1/10の約1万回程度.Multiple Level Cellの略.
  • TLCは1つのセルに3Bitの情報を記録する.書き換え耐用回数はMLCの1/10の約1,000回程度(最近では技術革新により3,000回~5,000回程度まで延びているそうです).Triple Level Cellの略.

はい,ここで勘の良い方は気づかれたかと思います.

そうです,3年ほど前,当院でHyper-V Serverのトラブルが発生したmicroSDメモリーカードは恐らくTLCだったのです.「恐らく」と書いたのは,確認の方法が無く,当時の購入価格や使用頻度による寿命から推測したものであり,また後述の対応策を講じて寿命を延ばせた事による状況判断ですが.

さて,TLCを用いて僅か8か月しか持たないのであれば,その10倍の製品寿命を誇るMLCにすれば期待寿命は80か月,すなわち6年と8か月は持つのではないか.そんな皮算用から,当時から唯一MLC NAND搭載を謳っているTranscendさんmicroSDメモリーカードに変更し,再度運用を開始しました.その結果,約3年が経過した現在でも問題なく稼働しています.

(画像はTranscendさんのHPより)

ちなみに余談ですが,SDメモリーカードと同じNAND型フラッシュメモリを搭載した製品にSSDという,従来のHDDに比べて非常に速い読み書きを行うものがあります.このSSDの場合は通常「コントローラ」と呼ばれるチップが搭載されており,そのコントローラチップが使用していないセルにまんべんなく書き込む(ウェアレベリングと言います)ことで,TLCであっても製品寿命を大幅に延ばすことを実現しています.わずか1,000回の耐久性でも8か月も持つことを考えれば,きちんと管理されて使用すれば大幅に寿命を延ばすことが出来るんですね.

とはいえ,年に数回の家族旅行の思い出を記録するなら,例えば年に5回であったとしても,200年は使える訳ですから・・・,適材適所,お安いTLCのSDメモリーカードでたくさんの思い出を記録した方が良いかもしれませんね.